【幻の和豚に、出会う】金アグーという贈りもの|ごちそう便りvol.9
Jul 01, 2025
ときどき、自分の食卓に並ぶ一皿を見て思うのです。
「このお肉は、どんなふうに育ったんだろう」と。
その問いに、正面から丁寧に答えてくれる豚がいます。
それが、“金アグー”という、沖縄で静かに育てられている幻の豚。
600年も前から受け継がれてきた血を持ちながら、
今では、数えるほどの生産者が
手間も時間も惜しまず、大切に育てています。
成長が遅い。育てにくい。
でも、それでもいい。
その“ゆっくり”のなかにしか、育まれない味があるから。
脂がとろける温度が、体温よりも少し低い。
舌の上でふわっと消えるような脂身に、
余計な雑味はひとつもありません。
それは、菌の数が通常の1/10、
コレステロールも1/4という“奇跡”のような育て方によって
ようやく手に入れられる、やわらかな味わい。
けれどその数字すら、
実際にひとくち食べたときの驚きには、きっと敵いません。
食べて、「ああ、美味しい」と思う。
でも、それだけじゃなくて、
なぜか静かに、誰かに贈りたくなる気持ちになる。
自分へのご褒美にも。
大切な人への贈り物にも。
このお肉なら、きっとどちらも似合います。
それは、金アグーという“豚”を贈るんじゃない。
大切に育てられた時間や、
やさしく込められた想いごと、そっと届けるような気持ちです。
ごちそう便り。今日は、気持ちを贈る一皿。
次回は、この気持ちが紡がれたある名店について、
もう少しお話を続けてみようと思います。